ろうけつ染めのこと

よこいひでお

絵というめんどくさい時間のかかるものには全く無縁だったボクが
「ろうけつ染め」と出会ったのは44歳の時だった。

とかした蝋を使って布に染色するのがろうけつ染めだが、
蝋で描くというよりも、染めたくない部分に蝋をひくという工程の繰り返しだ。

蝋をひいて染料で染め、また蝋をひいて染め、また蝋をひいて・・・。
そのうちにどこをどうしていたのか分からなくなり、
最後にどんな仕上がりになるのか見当がつかないこともある。

そんな時は、自分の力だけで製作するというよりは自然や偶然に委ねる部分が多い。

だからこそ、最後の蝋を取り除いたあと、完成した作品に対面する感動は、
描く途上で徐々に全体像が見えてくる他の絵画にはないであろう。


ぼくは作品の中に大木や山、自然や動物を取り入れている。
そして、それらの風景の中に「いきもの」たちの思いを表現している。
それは、共に生きるものたちの「祈り」の風景だ。


(2006年:長野県風の谷絵本館での個展 挨拶文より)


 
作者プロフィール 
 
横井英夫 
 
ろうけつ染を 石井静枝氏に師事 
2007年 長野「風の谷絵本館」で初の個展 
2008年 東京、神奈川で個展 
2009年 太平洋展入選:長野、東京、神奈川、山形で作品展 
2010年 太平洋展入選:東京、神奈川、山形、北海道で作品展 
2011年 太平洋展入選:神奈川、長野で個展、ろうけつ染絵本「ここにいるよ」 
2011年 夏に病を得て12月28日生涯を閉じる 


ろうけつ染

ろうけつ染の技法は、天平時代からあったと言われています。

現代は、マイクロワックス・パラフィン・パールワックス・木蝋・蜜蝋などの材料が使われています。
ろうけつ染は、筆のタッチがそのまま反映されるので温かみがあり、よりのびのびした自由な表現が可能であり、また、繰り返し引き染めを行うので、単色では出ない色の深みを表現できる技法です。

開催にあたってのごあいさつ

水島照美

よこいひでおは、1998〜2011のわたしのパートナーで、一緒にいろいろな活動をしていた。
多くの方に馴染みがあるのは、ろうけつ染よりも、「弥勒〜みるく」で歌っているBOO(横井英夫のニックネーム:ぶー)としての彼だと思う。


まだ、ろうけつ染が彼にとって気まぐれの遊びだった頃

彼らしさが発揮されて彼にしかできない世界はこれかもしれないと感じ、本気になる日のために、少しづつ染料買いためることにした。

彼がろうけつ染に没頭したのは、ろうけつ染と出会ってから20年以上が経った晩年の5年ほど。

再開直後はカッコよく見せたい欲まみれの作品連発の1年ほどの期間があり、その後、灰汁を出し切ったかのように次第に作品が変わっていった。

晩年。命をとじる前の5年だった。

うたうことと旅すること、ろうけつ染というツールを使って、

それまでの出会い、彼が生きてきた全てを、未来への想いと祈りと共に表現したように思う。

作品は残った。遺ったという感じはわたしにはなかった。

あぁーあ 残っちゃった。ぶーはいないのに。そういう感じだった。

処分しようとしたとき「一緒に連れっってやりゃぁいいじゃん」と次のパートナーの水島誠が言ってくれるまま明石へ連れてきたものの、作家在廊で話したり歌う肉体があってこその作品展だと思っていたので、もう作品展をすることはないと思っていた。

2021年秋。今回の作品展につながるきっかけの出来事が起こった。

山形県鶴岡市の農家民宿「知憩軒」の長南光さんから電話。


あなたたちのろうけつ染絵本「ここにいるよ」を綴織(つづれおり)で織って再現させて欲しい。

2022年3月末鶴岡アートフォーラムでの「紡ぐ展」に、「ここにいるよ」コーナーを設けて展示したいとのことだった。

信じられなかった。

「ここにいるよ」の絵本は、もう手元に在庫がない。

私が、読み聞かせのような形でお見せしない限り、新しく目に触れる人との出会いはないと思っていた。

もう、わたしたちの「ここにいるよ」の世界は、終わったもの と思っていた。


娘と二人鶴岡へ行くと、信じられない光景が目の前に広がっていた。

「ここにいるよ」の絵本をもとにして爪で細かく織り込まれた「綴織」の作品がホールの中央に連作で展示されていた。

その作品の前に立つわたしの知らない人々が、足を止めて作品と対話してくれていた。

光さんがお客さんに「この人たちが作った本よ〜」と私を紹介してくれた

会場に置かれた「ここにいるよ」の絵本も、たくさんの方が手に取って読んでくれていた。

ここにいた。

この出来事はわたしを大きく揺さぶった。

私にもできるだろうか、いつか。

その時は全く自信がなかった。

その当時の私自身に、物事を起こしたり動かそうという力はなかった。

でも、

その時から少しづつ、私の中の種は温まって芽を出し始めていたのかもしれない。

2024年後半、現在の地元神戸明石でライブの時に、思いつきで2度ほど作品と絵本を持参した。

瀧さん(今回26、27日珈琲出店)のサロンでのトランスパレントペーパー展ライブ

ポラリス(今回26日ご飯で出店)でのノブさんとの祝福のお水合わせのライブ

絵本を読んで、ろうけつ染を見せるということは、神戸の仲間たちに

横浜時代の私をみせること話すことで、ためらいがあった。

同時に話さずにいることにも、ためらいがあった。

話してみたら

昼寝から覚めたように軽やかにひらりと私が出てきて、過去の私は今の私と合体して

近い将来なにかできるかもしれない、という自信が湧いてきた。

そんな時セラビィとの出会いがあって、あれよあれよという間に「よこいひでおろうけつ染展」をすることに決まった。

誰か手伝って〜と呼びかけると

それぞれの持ち場を維持しながら、時間とエネルギーを工面してお手伝いしてくれる仲間が集まった。

よこいひでおのろうけつ染作品は、主役であり名脇役。

「オレは客寄せパンダでいいと思ってんの。おおぶね。おおぶね」と聞こえる気がした。

よく言ってた言葉だった。

余計なこと気にしないで、おおぶねに乗ったつもりで遊びなさい。

よくそう言ってた。(心配の種は全てよこいひでおだったけれど)

そういうことで。

おおぶねに乗ったつもりで遊びにきていただけたら幸いです。

現界霊界問わず、いつも支えてくれる友人恩人、今まで出会ったみなさん、これから出会うみなさんに

ありがとうございます。





2025年4月23日 
2日後に開催する

よこいひでお ろうけつ染展開催のご挨拶にかえて


水島照美